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4話 覚醒とともに、地は裂ける

last update Last Updated: 2025-08-16 08:50:55

 ──解錠を試みて、どれほどの時間が過ぎたのだろうか。

 地底にはもちろん太陽の光など届かず、時刻の見当もつかない。けれど、腹の減り具合から察するに、とっくに宵の帳は落ちて、夜も更けている頃合いだろうと想像できた。

 何百通りもの数字の羅列を書き出した指の感覚は、もはやおかしくなっていた。真新しかった筈のノートは、最初のページから最後の一枚まで、夥しい数字でぎっしりと埋め尽くされている。

「……多分、いけるでしょう」

 ネクターは聴診器を外し、ノートを片手に三つのダイヤルへと向き直る。

 カチリ、カチリ……カチリ。

 全てが噛み合った小気味よい音とともに、蓋がわずかに浮いた。

 見事、解錠成功。思わず小躍りしたくなったが、浮かれそうになる気持ちを抑え、ネクターはひとつ深く息を吐いた。

 やっとの対面だ。──だが、期待外れだったら? 不穏な何かが眠っていたら?

 頭をよぎる不安を押し殺して、ネクターは意を固める。蓋に手をかけ、ゆっくりと持ち上げた。

 錆びた金属の蓋はずっしりと重かったが、ある角度まで持ち上げると、勝手に開いた。

 その瞬間は中を見ずにいたが──いよいよだ。どうか、白骨死体だけは勘弁してほしい。

 生唾を飲み込み、ネクターは緊張した面持ちで箱の中を覗き込む。

 だが──それを目にした途端、言葉も悲鳴も出なかった。

 白骨死体ではなかった。だが、それが遺体でないとも言い切れない。

 そこに横たわっていたのは、少年とも青年とも判別がつかない、小柄な体格の男性だった。

 身に纏っているのは、古風なデザインのリネンシャツに、炭のように黒い下衣。枯れ葉色の編み上げ長靴を履いている。

 背丈は、ネクターよりわずかに高いくらい。十七歳の彼女と同年代か、もしかしたら少し年下にも見える容姿だった。

 ──だが、遺体にしてはあまりにも綺麗すぎる。

 服も傷んでおらず、肌の色艶もよい。まるで、今この瞬間まで生きていたかのようで──

 ネクターは思わずしゃがみ込み、じっと彼を見つめた。

 雪のように白く、さらさらとした白金髪。

 透き通るようなきめ細やかな肌。貝殻のように伏せられた瞼には、長く濃い睫毛。──そこには、儚くも美しい存在感があった。

 ネクターは、衝動に突き動かされるようにグローブを外し、そっとその頬に触れてみる。

 そして──目を丸くした。

 ……冷たいと思っていた。

 けれどその頬は、まるで血が通っているかのように、じんわりと温かかったのだ。まるで本当に、生きているかのようで……。

「……貴方は誰? どうしてこんな場所にいるの? 貴方、生きているの?」

 思わず語りかけてしまった──その、ほんの一瞬後だった。

 彼の眉がピクリと動いた。見間違いかと思ったのも束の間、彼は静かに、ゆるやかに──瞼を開いたのだ。

 まさか、起きるとは。

 だがそれ以上に、目を見開いてしまったのは──彼の瞳の、鋭さだった。

 蕩けるような寝顔とは裏腹に、目元はきつく、鋭く吊り上がった三白眼気味。

 その瞳を彩る虹彩は、ガーネットのような深紅で、真っ直ぐネクターを射抜いた。

 恐ろしいほどの眼差しに、ネクターは硬直した。

 無言のまま、彼は身体を起こす。

 大きな欠伸をひとつし、瞼を擦りながら──ネクターに視線を戻した彼は、意識がはっきりしたのか、目を見開いて驚いたような表情を浮かべた。

 だが次の瞬間、彼は剣幕になってネクターに何かをまくし立てた。

 声は高く、掠れていて、変声期を越えたばかりのような響き。そして、その言葉は──ネクターにとって、まったく聞き覚えのない言語だった。

 発した単語の意味は分からないが、どことなく海の向こうの国、ツァールの言葉によく似ていると思えた。

「な……何?」

 やがて、彼は起き上がり、ネクターの肩を掴んで無理矢理立たせると、更に剣幕になって吠えるように言葉を発した。

 怒っているのだろうか。違う、何か訴えているように思える。だが、言葉が分からない。

  ネクターが困惑したその時だった。

 ──ゴゥ、と、地鳴りが響き、無数の光虫たちが、暴れるように飛び始める。

「……地震?」

  一拍の間もなく、地面が激しく揺れた。

 そして、彼の背後の岩壁がボロボロと崩れ落ち始めた。

 彼はすぐさま、ネクターの背を押して走らせようとする。また何か言葉を投げかける──けれど、理解はできない。

「え……何? どういうこと!」

 何が言いたいのかまったく伝わらない。混乱の極みだった。

 だが、ここに居ては危ないだろう。ネクターはおどおどとすると、彼はひとつ舌打ちを入れた。

 彼が舌打ちをひとつする、その一瞬──ネクターは彼の瞳に戦慄した。

 ガーネットのような深紅の瞳が、警告ランプのように赤い光を灯したのだから。

(……うそ、人じゃない。まさか、五百年の孤独って……古代兵器の類い?! それを起こした事で崩落が始まる仕組みなんてことじゃ……)

 そう思った矢先、「その通りです」と言わんばかりに──彼の背後の岩壁が、凄まじい轟音とともに崩れ落ちた。

 ──逃げなければ、殺される。

 そう直感したネクターは、青ざめながらリュックとランタンを掴み、必死に駆け出した。

 その背後から、地底全体が崩れ始める轟音が響いた。

 そうして、今現在。ネクターは崩落を引き連れて迫る彼から逃げているのだ。

 行くんじゃなかった。開けるんじゃなかった──と、後悔したってもう時は遅すぎた。

 遺物なんて、百年単位で眠らせておくのが一番だ。

 逃げ惑うネクターの頭に浮かんだのは、そんな皮肉めいた教訓だった。

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